『若者はなぜ3年で辞めるのか?』読んだ

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

話題書ですが、話題になるだけのことはあります。他人にお薦めできる良書、ですがこんだけ売れてたらみんなもう読んでるか。
とりあえず「読むのメドイから要約キボンヌ」と言われたので、そのために作った要約をこっちにも載せちゃいます。使用上の注意。私の主観で纏めてるので、本書の内容との一致は保証しません。でも一応要約のつもりなので、私の主張とは一致しません。

  1. 若者はなぜ3年で辞めるのか?
    • 不況により企業が新規採用を厳選した結果、新入社員は一定の能力・専門性を持ち仕事に高い意識を持つ者が多くなった。
    • しかし新入社員に与えられる仕事は従来の年功序列型での新入社員に対するものと同様で、希望していた業務と実際の業務とのギャップが大きくなった。
    • 従来の年功序列型システムは、経済が成熟し成長を維持できなくなったことで崩壊している。
    • その結果、若い世代は将来、(上の世代と同様の)高い賃金をもらう可能性が殆ど無い。
    • さらに業務内容も、年功序列型企業では若手=下級にはやりがいの無いものが割り当てられる。
    • 現在の日本企業で取り入れられている成果主義の多くは年功序列型の上にかぶせただけで、問題を解決していない。
    • 名選手が監督になる制度から、名選手には選手としての優遇措置は与えつつ監督は監督としての資質で選ぶ制度への転換が必要。
  2. やる気を失った30代社員たち
    • バブル世代は年功序列を想定して入社したのに年功序列制度は崩壊し、将来は暗い。
    • 30代は20代よりも転職は不利。しかし勤続しても年功序列レールは切れている。
  3. 若者にツケを回す国
    • 企業や公務員の人員削減はリストラよりも新卒採用抑制で行われた。
    • 足りない若手を補う、いつまでも安く使えていつでも首を切れる非正規雇傭の増加。
    • 組合も年功序列で高年者の既得権益保護に力を尽くす。
    • その結果企業は老化し、技術継承が途絶えている。
    • 他方、正規雇傭の若者は数の少なさから極めて膨大な業務をこなさせられる。
    • 若者の賃金が低いため少子化
    • 年金等の福祉行政でも若者は老人のツケを払わされる。
  4. 年功序列の光と影
    • 年功序列の影1) 既卒者の就職戦線からの排除。有効求人倍率が1.0倍を下回った世代は最悪。
    • 年功序列の影2) コストに合わない中高年は、減給できないため切り捨てになる。
    • 年功序列の影3) 高齢者には高級を用意する必要があるため、中途採用の年齢の上限を低く(35歳)する必要がある。
    • 年功序列制度の典型である国家公務員は、天下りの形をとったリストラで不要な中高年を切っている。天下りのコストは税金。
    • 「聖域無き構造改革」によって国家公務員の年功序列も存続困難。若者の国家公務員離れ。
    • 年功序列ねずみ講
    • 年功序列によって世代内は平等でも世代間の格差が生み出されている。しかも今の20代は30年後に今の50代と同様の利益は受けられない。
  5. 日本人はなぜ年功序列を好むのか?
    • 日本型の詰め込み教育年功序列を好む土壌を作っている。
    • 戦国の平定以後の、自己を犠牲にして主君に忠誠を尽くすことを美徳とする土壌。
    • 企業は何も考えずに我慢してくれる「体育会系」を好む。
    • 年功序列制度は自身を存続するために若者を食い物にする。
  6. 「働く理由」を取り戻す
    • 「自分は〜をやりたい」という内的な動機を見つめ直し、それに従え。

マンセー

本書は、若い者がアレなのは年長者どものせいだということを見事に喝破しています。
本書で描かれる可哀想な若者はいくつかのタイプに分かれます。則ち

  1. 企業に求められた高い志と能力を持ち入社したのに、下らない仕事しか与えられないために3年で辞める20代
  2. 新人採用をしない企業が道具として使い捨てにする非正規雇傭の20代
  3. 年功序列型目当てで入ったのに年功序列が崩壊した30代

といった感じです。
年功序列型というのは各世代が概ね横並びで昇進して行くため、ピラミッドの下の層がそのまま持ち上がって行きます。すると企業はピラミッドではなく塔のような構造になります。バランス悪いですね。また、組織は上の階層ほど少ないのですが、その少ない椅子を大漁の元・下層民が占有するようになります。その結果、もっと下の層は上に上がるチャンスが無くなります。明日の栄光のために今日の屈辱に耐えていたはずが、明日の栄光なんて存在しない。そりゃ反乱しますわ。
また、本書は期せずして「なぜ上司は無能なのか」という問いにも答えています。上司の仕事はマネージメントなのでマネージメントの能力でもって選ばれるのが最も正しい在り方であるのに、年功序列型企業のシステムでは能力は不問であるか、せいぜい兵卒としての能力でもって選ばれることになります。兵卒として優秀だからって指揮官として優秀とは限らないのは当たり前の話なんですけど、世の中そうなってなかったみたいです。


本書は「若者が辞める理由」を端緒として、現在の日本では旧来の年功序列を変革する必要があるという、経営全般について論じます。ただし年功序列を捨てるならどのような形にすれば良いか、具体的にどのような成果主義を採用するべきかについては本書にはあまり書かれていません。それについては著者の前著『日本型「成果主義」の可能性』に書かれているらしいです。

マンセー終了。

本書の素晴らしさは年功序列という過去の遺産の崩壊を高らかに宣言したことにあるのであって、来るべき未来の予言には無いです。なので以下の雑言は本来なら前著に向けて書かれるべき問題のような気もするのですが…
外資系の若者も3年で辞めます。知人が入社前から辞めると言ってたもんで。
本書は指揮官と兵卒の分離を説くのですが、そういう構造を完全に採用している外資系企業では兵卒はいくら優秀でもいくら高い給料をもらっても兵卒のままなので、上に立とうと思ったら退社独立起業する必要があります。そんなわけで、彼にとっての奉公先というのは独立資金とノウハウを得るための場所ということになります。*1
このことは、年功序列が無いからといってユートピアに行けるわけではないということを意味します。

著者の主張を、年齢を縦軸,人を横軸にした図にすれば、年功序列は水平方向には平等だが垂直方向には大きな格差があるでしょう。成果主義について同じ図を考えれば、垂直の格差が小さくなる代わりに水平方向への格差が大きくなります。
それが悪いとは言いません。西欧諸国では普通のことらしいです。ホワイトカラーとブルーカラーとの間には歴然とした断層が有り、2大政党がそれぞれの立場を代表して対立してみたりとか。資本家と労働者の対立。いや、古くさい話です。その古くさい話は決してユートピアの物語ではありません。
ところが本書は自身についてこれほど希望に満ちた明るい書はないだろう。と言います。この楽天的な姿勢、それがちょっと鼻につきました。本書は人々に地獄を認識させれば十分だったのであって、ことさらに天国を夢見させる必要はなかったんじゃないかと思います。

*1:もっともこれは外資系企業の話であって、外国企業に直ちに論旨を拡大できるかは解りません。というのも、外資系というのは会社が外国人を雇ってるという話であって、米国人が米国人を雇う場合とは違ってくるので。例えば外国企業に限らず、トヨタでも最近までは海外生産拠点に日本人の技術者を指導者として派遣することにしていて、現地人の登用はあり得なかったらしいわけで。